昭和57年7月、中学生名人戦に参加のため父伸一に連れられ上京。中国地方では敵なしだったが、
全国の壁はやはり厚く、聖はベスト8まで勝ち進み敗退してしまった。

 「悔しいんか」と伸一。「うん」と言って聖は唇を噛んだ。病気と闘いながら生きる聖があれほどに夢中に打ち込み、自信と勇気の根源になりつつある将棋で打ちのめされた。

 広島へ帰る新幹線の時間まで余裕があったので、電話帳で見つけた西日暮里将棋センターに入り、「四段です」と消え入りそうな声で答えた。

 聖は弱くなりそうな気持ちをかき消すかのように、そして自らの壁をうち破るかの様に勝って勝って勝ちつづけた。もう道場に聖の相手はいなかった。

 そこへ一人の巨漢がふらりと店に入ってきた。その巨漢こそ小池重明その人だった。席主から話を聞いた小池は にこやかに聖に近づいてきた。そして、「僕、強いんだなあ」と言った。

 聖にとって小池との運命的な出会いであった。 一局打つことになった。

 戦いは手に汗握る熱戦となり、長い長い戦いを制したのは中学生の聖だった。「僕、強いなあ」と小池は敗戦に何ら悪びれることなく聖を称えた。先ほどまでの鬼のような形相が嘘のように にこやかになっていた。

 「がんばれよ」 と小池は聖をやさしく励ました。

 広島へ向かう新幹線の中で、聖は意気揚々としていた。 真剣師として全国に名を轟かせ、アマ名人戦2連覇を成し遂げた小池を破った。 その事実が折れかけていた聖の翼を蘇らせた。

 「僕、強いなあ」 という屈託のない小池の笑顔が聖の脳裏をよぎって一時(いつとき)も離れなかった。