浦江公園から見た三谷工業(1階)と前田アパート(2階)。2階の真ん中が聖の部屋。

 対局の朝、部屋を出たのはいいが玄関からどうしても動けなくなる。這うように外に出たとたんにアスファルトの上に崩れる。すると、「大丈夫か?」と声をかけてくれる人がいる。近所の三谷工業という電気工事屋の人だった。「お願いです、僕を将棋会館まで連れていってくれませんか」 「歩けんのか?」 「はあ」 「よし、わかった。いま車を廻してやるからな」

 そんなことが3度か4度あった。その日以来そのおじさんは、毎朝9時ごろになると、前田アパートの前のようすを窺うのが日課になっていた。